Thursday, September 30, 2010

ご飯を炊くエネルギー その2 充電池

1週間以上の長期キャンプをする時には、食事を作るのに灯油を燃料としたバーナーを利用する。灯油は僻地であっても世界中で比較的容易に入手可能であり、燃料として一番安く、氷点下であっても強い火力が得られるというメリットがあるからだ。しかしながらそのメリットと引き換えに、バーナーに着火するまでにかなり面倒な手順と時間を要するという難点がある。まず灯油のボトルに付いている空気ポンプを十数回ポンピングして、ボトル内を加圧する。次にバーナー内に灯油をわざと少量漏らして火を付け、バーナー全体を暖める。十分暖まったところで灯油をバーナーに送り込むと熱で気化して噴出するので、着火して安定した青い炎になるまでしばらく待つ。準備を始めてから実際に使えるようになるまで、5分から10分はかかる作業だ。

1週間以内の冬季を除いたキャンプであれば、着火するのが遥かに簡単なガスカートリッジ式のバーナーを使ってもよい。ガス栓を捻って火花を飛ばすボタンを押すだけで、ライターのように着火できる。しかしながら専用のガスカートリッジはアウトドア用品店に行かないと買えないのでキャンプをするような田舎や山では入手できず、また値段もかなり高く、氷点下では火力がとても弱いというデメリットが伴う。それにこれは灯油バーナーにも言えることだが、不安定に風が吹く外での調理は火力調節が難しく、かなり慣れていてもまれにご飯を焦がしてしまうようなことがある。

灯油やガスよりも使い勝手のよい新しいバーナーを、電池をエネルギー源にして作れないものかと友達に聞かれたことがある。その発想は確かに理解できる。電気であれば、スイッチひとつ入れるだけで電気炊飯器のように自動制御で焦がすようなことがなくご飯が簡単に炊けるだろうし、太陽電池シートを持っていけば充電できるので長期キャンプの際には燃料の入手で頭を悩ましたり大量の燃料を持ち運ぶ必要もなくなるし、乾電池も使えたらさらに便利だ。

ではその実現可能性を検討してみよう。先に我が家の軒先で実験をしたところ、ご飯を1合炊くのには灯油を15グラム消費することがわかった。そこで比較のために、同じ15グラムの電池でご飯を炊いてみることにする。

僕が使っている携帯電話のリチウムイオン充電池がちょうど15グラムだったので、これでご飯を炊いてみる事にしよう。しかし、電池で動く炊飯器なんていったいどこで売ってるのかって?心配無用。電池に記載された表示をよく見てみると、そこには「3.7V 830mAh」と書かれている。これがこのリチウムイオン充電池に詰まっているエネルギー 量を表す数字なのである。これじゃあなんだかよく分からないので、日常生活でよく目にするエネルギー単位のカロリーに換算してみると、2.6キロカロリーとなる。それでもやっぱりピンとこないよね。この15グラムのリチウムイオン電池のエネルギー2.6キロカロリーと、15グラムの灯油を燃やしたときのエネルギーを比較してあげれば、15グラムのリチウムイオン電池で何合のご飯が炊けるのか計算できることになる。さて御立会い。いったいどのぐらいのご飯が炊けるのか。なんとたったの小さじ一杯分である……。灯油やガスのかわりに電池でご飯を炊くことは、物理的に無理であることがわかる。


いま世の中は、化石燃料を使わないエコな電気自動車の話題で持ち切り。一刻も早く普及しないものかと思うし、それならば船や飛行機なんかも石油を使わずに電気で動かせばいいのに、なんて考えてしまう。だがしかし、ご覧の通り15グラムの石油でご飯が1合炊けるのに、15グラムの充電池ではたったの小さじ一杯分のご飯しか炊くことができないのである。言い換えれば石油には大量のエネルギーが詰まっているのである。石油が人類に繁栄をもたらし、人類が石油を手放すことの出来ない理由がここにある。

充電池の中でもっとも性能が良いリチウムイオン充電池は、最近やられっぱなしの日本における残された数少ないお家芸。いまエンジニアが日々必死になってより高性能なものを開発している。でも環境破壊のスピードに対して技術革新のスピードは、間違っても十分であるとは言えません。頑張れエンジニア!地球のために。

Sunday, September 26, 2010

ご飯を炊くエネルギー その1 灯油

僕はカヌーが好きである。何日もかけて野営しながら川を下るのであるが、道中の食料とャンプ道具は全てカヌーに積みこむ。二人用のカヌーを一人で使い、空いたスペースに荷物を詰め込むのだが、積載量に上限が出てくるので、おのずと補給なしで行動できる日数は制限されてくる。テントや寝袋や炊飯道具などは、一泊二日だろうが一週間だろうが同じような装備を使うので、日数が増えても重量が増えることはあまりない。日数に比例して増えるのは、食料と、食料を調理する燃料である。魚を釣って食料を補給したり、焚き火を調理に使って燃料を節約したりすることはある程度できるが、その土地に住みつくのではなく移動しながらの旅であるので、持参した食料と燃料に多くを頼らざるをえない。したがって何日もかけた大掛かりな計画をたてる時には、食料と燃料の重量と体積の計算が重要になってくる。

そこで、ご飯を1合炊くにはどのぐらいの重量の灯油を消費するのか、小雨降る気温20度の秋の夜長に、我が家の玄関先で実験してみた。灯油やホワイトガソリンを燃料とするアウトドア用のバーナーを使い、風を避けるためにバーナーの周りをアルミ板で囲って、チタンのコッヘルでご飯を炊くのに要した灯油は15グラムであった。容積に換算すると約19ccとなる。



朝にご飯と味噌汁を食べる人は、朝昼晩とそれぞれご飯を1合づつ消費し、1日に合計3合を食べると仮定しよう。3合のご飯を炊くのに必要な灯油は約56ccとなるので、1年分となると約21リットルを燃焼させることになる。この21リットルという量は石油のポリタンクに入れると1.2個分であるが、それがいったいいかほどの量なのか、環境負荷の一つの指針である二酸化炭素を基準にして、車の燃料であるガソリンと比較してみよう。

灯油は、製造するときに1リットルあたり約160グラムの二酸化炭素を排出し、燃やすと1リットルあたり約2.5キログラムの二酸化炭素を排出する。ガソリンは、製造するときに1リットルあたり300グラムの二酸化炭素を排出し、燃やすと1リットルあたり約2.4キログラムの二酸化炭素を排出する。

1人分のご飯を1年間炊くのに、灯油を21リットル燃焼させて、約54キログラムの二酸化炭素を排出することになる。同じ54キログラムの二酸化炭素を排出するガソリンは、約21リットルである。

車の燃費をプリウスあたりを基準としてリッター23キロメートルとすると、21リットルのガソリンがあれば420キロメートル走れることになる。なんと東京と静岡県掛川市を往復するだけで、1年分のご飯が炊けるのである。まあ、容易に想像できる範囲の話ではある。四畳半の狭い部屋の中に車のエンジンを設置して7時間もぶん回し続ければ、灼熱地獄となるであろう。その熱でご飯米1年分が炊き上がるといわれれば、納得できるような気がしてくる。

我々日本人は、いや先進国の人達は、いとも簡単に、そして気楽に東京と掛川市の往復などやってのけるが、発展途上国で日々食事を作るために薪を拾い集めている人たちにとっては、食事一年分の価値があると言ってしまっても過言ではないであろう。そして、機械による移動は人間の文明を築き上げた偉大なる発明であり、また壮絶なる破壊であるとも言えよう。