2010/10/23

ご飯を炊くエネルギー その5 隕石

ご飯を単位にして様々なモノが生み出すエネルギーを比較してきたが、反物質という究極のエネルギー源となるものを取り上げて、その15グラムという質量または存在自体を全てエネルギーに変換してしまった。もうこれ以上スケールの大きな面白い話はなさそうだ……と、少し寂しく思っていたが、まだありそうだ!隕石である。

恐竜が絶滅した原因は巨大隕石だ、という説が現在の主流となっている。隕石ではなく小天体と言ったほうがしっくりいきそうな直径10キロメートルもの巨大な隕石が、アメリカ大陸のユカタン半島に落下したのであるが、それでも地球の直径1万2千700キロメートルと比較すればちっぽけなゴミである。地球を東京ドームの大きさだとすれば、サッカーボールを投げつけるようなものである。そのちっぽけなサッカーボールが、なぜ東京ドーム一面に散らばって生息している全ての恐竜を絶滅させるだけの大惨事を引き起こす事ができるのであろう。その答えは速度にある。

酔っ払って歩いてコンクリートの壁に頭から激突したら、まあ経験したことはないのであるが、タンコブが出来て目茶苦茶に痛い、下手したら血が吹き出て病院に運ばれ縫う羽目になるであろうことは想像に難くない。おおよそ人間の歩く速度は時速4キロメートルであるが、では10倍の時速40キロメートルでコンクリートの壁に激突したらどうなるだろう。衝突エネルギーは速度の2乗に比例するので、速度が10倍早くなれば、
で、衝突エネルギーは100倍になる。100倍……、頭を割って死ぬと思われる。たった時速40キロでこうなのだから、さらに早く走るクルマに乗るときには、いかにシートベルトが重要なのかが良く理解できる。速度が100倍になったら衝突エネルギーは1万倍(10,000倍)、速度が1,000倍になったら衝突エネルギーは100万倍(1,000,000倍)、速度が10,000倍になったら衝突エネルギーは1億倍(100,000,000倍)という具合に、加速度的指数関数的ねずみ算的上昇となる。

では恐竜を絶滅させた隕石の速度は如何程であるかというと、それはもう宇宙的な速度であり、だいだい時速7万2千キロメートルぐらいであったろうと計算されている。これは東京駅から出発して川崎駅までたったの1秒で着いてしまうという、想像の域を遥かに超えた速度なのである。これってもう人間の感覚からすると、ほとんどテレポーテーションだよな。

では、15グラムの隕石が衝突したら、そのエネルギーで何合のご飯が炊けるか計算してみよう。15グラムの隕石では地球に落下しても小さすぎて大気との摩擦で蒸発して地上には届かないので、国際宇宙ステーションのような宇宙船に衝突することとする。計算は単純であり、運動エネルギーを表す式は
である。物理学の世界で基準となる単位は、質量がキログラムで長さがメートル、時間が秒であるので、15グラムと時速7万2千キロメートルを単位変換して上の式に代入すると、
となる。[J] はジュールというエネルギーの単位であるが、これを普段の生活で馴染みのあるキロカロリーという別のエネルギー単位に変換するために4,184で割ると、720キロカロリーとなる。これをご飯を1合炊くのに必要な160キロカロリーで割ってあげると……、なんだ、意外と平凡、4.5合のご飯が炊ける。


もしあなたが2,000万円払ってスペースシップワンに乗り込み宇宙旅行をしている最中に、幸運にも15グラムの隕石と衝突した場合、隕石がめり込んでブスブスと真っ赤に煮えたぎっている穴の中に鍋をかけるとご飯が4.5合炊けます。是非お米を持参しましょう!

でも、「たったのご飯4.5合か、大したことないジャン」、なんて思うなかれ。宇宙船は立派に大破します。地上だけではなく宇宙にもごみ問題が発生しており、ロケットや人工衛星の部品などの人間が宇宙に捨てた大量のごみが地球の周りを回っていて、国際宇宙ステーションや高価な人工衛星にぶつかり破壊することが大きな問題となっています。みなさん、ゴミは持ち帰りましょう!

2010/10/16

ご飯を炊くエネルギー その4 反物質

スイスとフランスの国境をまたぐ地域の地下100mに、世界征服を企てる研究者達が合体ロボの開発に日々取り組んでいる、CERNという秘密地下研究所があるのをご存知だろうか。合体ロボはこの研究所で作り出される反物質をエネルギー源とし、その威力は鉄腕アトムの原子力エネルギーより1,000倍強力で……。

CERN研究所(欧州原子核研究機構)は、年間約1,000億円もの巨大な予算が投じられて、20ヶ国により共同運営されている。いったいここで何が研究されているのであろうか。ここでおこなわれている素粒子物理学研究のあまりにもエキゾチックな世界を、ご飯を炊くエネルギーを通して垣間見てみようと思う。

反物質という言葉をSF小説や映画の中で聞いたことがないだろうか。宇宙戦艦ヤマトの波動エネルギーやUFOの反重力装置は空想科学であるが、反物質は実在する。ところが実在するにもかかわらず我々の周りに反物質は存在せず、人間が宇宙の真理を追求した結果その存在を数式から予測し、極々まれに宇宙から地上に飛来してくる反物質の粒子を発見してその存在を確認したという、なんともエキゾチックな物質なのである。そしてついに1995年、人類は英知を結集し、CERNで反物質を人工的に作り出すことに成功する。

反物質は、我々の周りにある通常の物質とは電荷、すなわち電気的な性質が全くあべこべであるが、その他の性質は同じである。そして反物質が通常の物質と出会うと、通常の物質もろともその存在が消滅し、同時に莫大なエネルギーを放出する。この「消滅」という現象は、日常生活では目にすることが無いあまりに特異なものである。目の前に置かれた100円玉が、ある日忽然と姿を消すことがあるだろうか?木は燃えて無くなるが、あれは水と二酸化炭素に分解されて空気中に飛散しただけであり、それらすべてを捕獲して重さを測れば、燃やす前の木と燃やすときに消費した酸素を足し合わせた重量になる。車が錆びていつの日か無くなるのも、たんに錆びて細かい塵になり風に飛ばされて分散するだけのことである。ところが反物質の「消滅」は、完全にその物質の存在がこの世から失われ、その代わりとしてのエネルギーが生まれる。質量がエネルギーに変換される、すなわち質量とエネルギーは等価であることを導き出したのは、かの有名なアインシュタインである。

さて、ご飯を1合炊くのに15グラムの灯油が必要であるが、同じ15グラムの反物質をCERNで作ってご飯を炊き比較してみよう!……無理である。現在の技術ではどんなに頑張っても反物質の原子をたかだか1秒間に数万個作れるだけであり、15グラム用意するには数千億年はかかる。しかも通常の物質と出会うと瞬時に消滅するのであるから、入れる容器がこの世に無い。でも反物質という宇宙の神秘がどの様なものなのか、感覚的に理解したいではないか!反物質を15グラム用意しよう。

アインシュタインの方程式として有名な
は、
 
であり、反物質15グラムと一緒に消滅する通常の物質15グラムを足し合わせた30グラムをこの式に代入すれば、反物質15グラムが消滅した時に放出されるエネルギーが、6千450億キロカロリー(645,000,000,000キロカロリー)であることが計算される。ご飯を1合炊くのに必要な160キロカロリーで割ると、40億合(4,000,000,000合)のご飯が炊けることになる。朝昼晩と1合づつ食べて、人生80年として、人生4万6千回分(46,000回分)のご飯……。う~む、もう想像の域を超えていてピンとこない数字である。 370万年分のご飯であるから、もし時間を遡るならば、なんと初期人類のアウストラロピテクスに会うことが出来る。


「世界とは何であるか」と哲学し、ついにはこの反物質を創りだすまでに至ったわずか1,400gの人間の脳には、ただただ驚愕するばかりである。

2010/10/10

ご飯を炊くエネルギー その3 ウラン

さらに話を膨らませてみよう。実験と計算から、15グラムの灯油では1合のご飯が炊けるが、同じく15グラムのリチウムイオン充電池では小さじ1杯のご飯しか炊けないことがわかった。原子力エネルギーではいかほどか。

原子力発電所や原子力潜水艦、原子力空母、原子爆弾、宇宙探査機などで使われている原子力エネルギーは、土の中から掘り出したウランやプルトニウムという物質を燃料にしている。そのウランが出すエネルギーは1グラムで1千960万キロカロリー(19,600,000キロカロリー)である。これまたピンとこない数字だなぁ。

では前回同様に15グラムのウランで炊けるご飯の量を計算してみよう。話は単純である。ご飯を1合炊くのに必要なエネルギーは、玄関先の実験から160キロカロリーであることがわかった。したがって
を計算してみればよい。なんと183万合のご飯が炊けて、1人の人間が朝昼晩と1合づつ計3合のご飯を1日に食べ人生80年生きるとすると、人生21回分のご飯となる!驚愕である。


人類絶滅の危機を招くにもかかわらず核ミサイルや原子力空母や原子力潜水艦などの原子力エネルギーを利用した軍事兵器を止めることができないのも、チェルノブイリなどの凄惨な事故の影が常に付きまとうにも関わらず原子力発電所の利用や開発を続けているのも、このようにほんの僅かな量のウラン燃料からとてつもなく莫大なエネルギーが取り出せるからである。

原子力は人類史上いや地球史上前代未聞の破壊能力を持つエネルギーであるが、視野を広げて宇宙に目を向ければごくごく普通の自然現象である。まさに太陽は原子力エネルギーで真っ赤に燃えたぎっている。人間が哲学的に宇宙の真理にまで頭を巡らせる能力を持ってしまった以上、原子力エネルギーの発見は遅かれ早かれ到来したのである。英知をさらに発達させて倫理的・技術的に完全なコントロールの術を学習し、完全に平和で安全な利用を成し遂げられる日が来ることを願いたい。