Thursday, December 30, 2010

ご飯を炊くエネルギー その12 鉄

信じ難いかもしれないが、鉄だって燃えるのである。

ライターで鉄を炙っても、ガスバーナーで炙ってみても、ましてや鉄筋コンクリートの家が火事で焼けてしまっても、鉄は燃え上がることはなく、せいぜい赤熱して柔らかくなりゆっくり変形するだけである。そもそももし鉄が燃えるのであれば、鉄鍋を火鉢にかけて汁を作ることもできず、火箸も蒸気機関車も焼却炉もまったく使いものにならない。ところがこの鉄が燃えるという現象は、普段の生活においてかなり身近な存在であったりする。寒い冬に重宝する使い捨てカイロが、鉄の燃焼を利用して発熱しているのだ。急激に燃焼することなくじわじわと反応するように鉄を含んだ成分が調合されており、人肌より少しだけ高い温度を長い時間持続する。

さてそれでは、早速鉄を燃やしてみよう。しかしいくら長時間、それこそ丸一日、鉄をコンロで炙ってみても一向に火はつかない。いったいどうすれば良いのか。そこでまず、非常に燃やしにくい鉄ではなく、木を燃やす手段から考えてみる。キャンプ場で焚き火をするために買ってきた太い薪は、いくらライターで炙ったところでまったく火がつかないが、木を薄く削ったカンナ屑や木が原料の紙は、ライターでいとも簡単に火がつく。そう、薄くすれば火が付きやすくなるのである。すなわち立体から面にすれば良い。さらに火を付けやすくするにはどうすればよいか。今度は面から線に、すなわち細い糸状にすれば良い。ポケットに溜まった糸くず同様に、繊維状にした木はライターで炙らずとも火打石の火花だけで発火するだろう。これとまったく同じ原理を鉄にも応用すればよい。鉄を細い糸状に伸ばした台所の流しや鍋を掃除するスチールウールだったら、ライター1つで燃えるのである。

では、15グラムの鉄でご飯が何合炊けるのか。0.15合である。

 

ところで鉄が燃えるというのは、いったいどのような現象なのだろうか。一般的に物が燃えるといえば、燃やすものと空気中の酸素が結合して、熱と光が発生することをいう。上の図にある木や石炭、灯油、水素などの燃焼がそれにあたる。木が燃焼すれば、熱と光を出しながら空気中の酸素と結合して水と二酸化炭素へ変化し、空気中に発散して消えていく。灯油も同様に燃えて水と二酸化炭素になり、水素は燃えて水だけになる。鉄の場合は、熱と光を出しながら空気中の酸素と結合して酸化鉄、いわゆる錆となる。

さてもう一度上の図を見てみると、鉄から始まって水素までは、同じ酸素と結合する燃焼であるにもかかわらず炊けるご飯の量が大きく異なる。鉄が0.15合しか炊けないのに対して、水素は2.7合も炊ける。この差が発生するメカニズムはどのようなものだろうか。じつは意外と単純に考えることができる。スチールウールが燃えると、だいたい鉄の原子1個に対して酸素の原子が1.3個結合して熱を発生する。かたや水素が燃えると、水素の原子1個に対して酸素の原子が0.5個結合して熱を発生する。鉄原子は水素原子に対して3倍弱の酸素と結合するが56倍も重いので、同じ重量を燃やせば鉄原子は水素原子に対して1/20の酸素としか結合できない。だから鉄の発熱量は水素の発熱量に対して少なくご飯が炊ける量も少ないと考えても、だいたいあっている。

宇宙に存在する原子の中で水素原子が一番軽い。また、例え優れた技術で人工原子を合成したとしても、水素原子より軽い原子は作れない。軽ければ軽いほどより多くのご飯を炊けるので、水素が宇宙で一番多くご飯を炊ける、燃やす(酸化させる)燃料なのである。スペースシャトルの燃料に水素が使われているのも、このような理由だと考えておおきく間違ってはいない。

Saturday, December 11, 2010

ご飯を炊くエネルギー その11 木

人類最大の発明であり、猿から人間へと進化する武器となった、焚き火。最も原始的な燃料である。

森の中で拾い集めた薪に火をつけて、ビール片手に焚き火をゆっくりと我が子のように慈しみながら育てていると、飽きることなく眠くなるまで何時間でも眺めてしまう。焚き火がもたらす安心感は絶大であり、たった一人でカナダ北西部の原野にある川を下っていると、まず夕方上陸して真っ先にすることは、特に暖が必要なほど冷え込んでいなくても薪を集めて焚き火を作ることであり、赤い炎を見るだけで抗うすべのない大自然から受ける底知れぬ不安感から開放される。このDNAに組み込まれているとしか思えない万人共通の感覚は、初期人類から始まった古い記憶であるに違いない。

焚き火でご飯を炊くのはとても難しい。家庭のガスコンロでもよいからご飯を鍋で炊いた経験のある人は分かると思うが、美味しく炊くには微妙な火加減とタイミングが命である。しかし焚き火ではそれを上手にコントロール出来ない。古い民家のように薪を燃やしてご飯を炊くための大きなかまどと十分に乾かした薪があればよいが、屋外の吹きっさらしだと風と湿った薪のおかげで、弱火を作り出すのは至難の業である。焚き火を一気に大量に燃やすと火が消えたときに赤々と燃えた炭が沢山できるので、その燠火の上に鍋を載せ、上手に炭の量で火加減をするなどの技が必要だ。

したがって本来焚き火でご飯を炊くには大量の薪が必要である。しかし一工夫してかまどのように風や熱を遮断する壁をレンガなどで作り、小さな炎で弱火を維持できる細い焚木が大量にあれば、ガスには及ばないが熱効率のよい炊き方が出来るかもしれない。そのような状態、すなわち燃料を燃やした熱が鍋に伝わる効率がだいたいガスと薪で同じであるとして、いったい15グラムの薪で何合のご飯が炊けるのだろうか?

木がもつ重量あたりの熱量は含まれる水分量によって変わり、もちろん乾燥している方が熱量は高い。日本は雨が多いので薪を拾っても湿っていることが多くなかなか火がつかないが、カナダに行くと乾燥気味で拾ってきた流木にばかみたいに簡単に火がつく。焚き火の経験が少なくても容易に火が着くのではないかと思うほどで、現に大規模な森林火災が非常に多い。水分45パーセントの木材チップがもつ熱量は約2,000キロカロリーなので、15グラムの薪では0.2合のご飯が炊けることになる。


再生可能エネルギーの1つであるバイオマスエネルギーの木材は、小規模な発電や暖房用などとして今後注目を集めていくだろう。15グラムの灯油でご飯が1合炊けるが、15gの木でご飯が0.2合だから、灯油と比較してもそんなに分は悪くない。木材ペレットならば拾ってきた薪より乾燥しているので、もう少し多くのご飯が炊ける。僕もいつかは薪ストーブで暖が取れる家に住みたいものだ。

Monday, December 6, 2010

ご飯を炊くエネルギー その10 石炭

僕が石炭と聞いて浮かび上がるイメージは蒸気機関車。遠路はるばる海を渡ってヨーロッパから走ってきたパリ発東京行きのオリエント急行が、上野駅から蒸気機関車のD51に牽かれて出発するのを観に行ったことがある。蒸気機関車は石炭を燃やしてお湯を沸かし蒸気で走るのだが、オリエント急行の年代物の客車に使われている暖房も各車両に備わった石炭ボイラーの温水で賄われており、上野駅の半地下になっているプラットホーム一面に石炭を焚いた煙と匂いが充満していて、そこだけ50年前のヨーロッパへと時間と空間が滑っていた。

石炭はすでに過去のものとなりつつあり、いまでも電力の主要な供給源となっているのは中国ぐらいだと思っていたが、調べてみると驚いた。アメリカでは50%、日本では27%もの電力が、未だ石炭火力から供給されているのである。埋蔵量が石油に比べて圧倒的に多く、また地域的な偏りがなく世界中に埋蔵されているのがそのメリットであり、二酸化炭素の排出量が石油よりも多いことがデメリットとなる。


では15gの石炭で炊けるご飯は何合か?0.5合である。灯油と比べると半分もの量が炊けるのであり、意外と侮れない。

 

石油は液体だからしっかりした容器に入れて保存と持ち運びをしないと危険だし、一年ほど放っておくと変質して駄目になるが、石炭なんて適当な容器にでも放りこんでおけば良さそうだし、たしかに発電等にはお手頃なのかもしれない。