Wednesday, April 27, 2011

最低気温は摂氏0度、最高気温は摂氏30度

北海道は別寒辺牛川でカヌーをするために明日出発するが、ここ1週間ほど毎日想像力を駆使して荷物を準備している。これも楽しい一時だ。6泊7日をかけて川を下るので、キャンプ道具と食料、遊び道具を合わせればかなりの量になり、小さなサンドバックのような見てくれの防水バックを4つほど必要とする。毎度のことで慣れているとはいえ、万が一忘れ物をしても森や湿原の中ではコンビニどころか田舎の雑貨屋も民家すらないので、準備にはかなりの時間をかけて、ありとあらゆる状況を想像しながら荷物を増やしつつも、カヌーで倒木を超える際に邪魔にならぬようできるだけ余分を削っていく。

一番嵩が張っているのは衣類である。なにせ、ゴールデンウィークにおける別寒辺牛川での過去2回の経験では、最低気温が雪を伴う摂氏0度、最高気温は摂氏30度なのである。真冬の防寒着と、川に放り出されて全身濡れ鼠になった場合の予備の服と、真夏のような暑い日差しの中で汗を書いても快適な服装が、防水バックへぎゅうぎゅうに押し込まれていく。

濃厚な四季が別寒辺牛川にあるのだ。摂氏0度の真冬から摂氏30度の夏の日差しが、森と湿原の原野に同居している。都会で感じる体に酷な寒暖の差の激しさ、というものはそこにはなく、まるで動物が一枚の毛皮だけで四季を通すような気持良さだけが心を喜ばす。


Saturday, April 23, 2011

別寒辺牛川へ

来週から始まるゴールデンウィークを使って、北海道の別寒辺牛川へカヌーの旅に出かける。野営しながら6日間かけて上流から下流まで下り、東京から川までの往復にフェリーを使って4日間、計10日間の旅である。

北海道の東に位置する別寒辺牛湿原を流れる別寒辺牛川は、日本最後の原始の川だ。川は人間に一切妨げられることなく、湿原を、森をうねり、自分の意志で自由自在に進路を変える。鳥と魚と植物の楽園であり、丹頂鶴や幻の魚イトウや行者ニンニクがその懐に抱かれている。自由自在に流れを変える川が両岸を削り取るため無数の倒木が川に横たわり、この川をカヌーで下るということは、カヌーを倒木の上に引きずり上げ、倒木の下を無理やり潜らせることであり、僕達以外にこの川を上流からカヌーで下る人間などいないであろう。同じこの別寒辺牛川でイトウを研究している友人は、僕のことを変態カヌーイストと称してくれる。

今年でもう三度目となる。何度旅をしても魅力がまったく薄れることのないこの別寒辺牛川の記録を、旅から帰ってきたら是非とも書き記そう。この川だけは、僕が爺さんになってカヌーで下れなくなるまで、百年後まで、地球が宇宙の塵となるまで、人間の手が触れることなくこのまま生き続けてほしいのだ。

Monday, April 4, 2011

サバニの帆

グランドストリームの大瀬志郎さんを訪ねて、琵琶湖の北西岸にあるマキノ町へ行く。湖岸にある小さな集落のメインストリートから逸れて細い脇道をわずかに登ると、所狭しとカヌーが詰め込まれた築100年は経っているであろう黒光りする古民家が目に飛び込んできた。見せていたたげないかと事前に連絡しておいたホールディングカヤックは、蹴飛ばせば1メートルほど下の畑に落ちてしまう道路脇にすでに二艇並べてあり、長髪の日焼けした顔とがっしりとした体格をもつ大瀬さんが、誰かが何かの配達にでも来たのかと家からひょっこり出てきた。

琉球の伝統的な船であるサバニの帆をホールディングカヤックに立てたマストに取り付け、時折強く吹き付ける風に帆をばたつかせながら、西洋のいわゆるヨット型の帆と比較してのその扱いやすさを熱のこもった言葉で彼は語る。このカナダ製のカヤックにはヨットと同じ構造と素材で作られた三角形の帆が標準オプションとしてあるため、僕の頭の中ではヨット風のイメージがすっかり形作られており、布と竹で作られた凧のような純和風の帆が西洋のアルミと原色の樹脂シートで作られたカヤックに取り付けられたとき、初めはどうにも異質に思われ、ただ単にヨット型の帆に飽きた場合の遊びとしての選択肢の一つ程度のようなものと思われた。しかしながらも、凧のような素材で凧のように扱うサバニの帆がいかにカヤックと相性が良いか彼から説明を受けているうちに、フムフムなるほどと頷きながらすっかり以前のイメージは影を薄めていった。

寒風を避け土間に置かれた木のテーブルでコーヒーをすすりながら、島国日本で生まれた誇り高き航海術の一つであるサバニを誇り、国境のない広大な海で過去様々な地域の航海術が混じりあってきたように、今また自分が北極圏で生まれたカヤックと琉球で生まれたサバニを融合させる役割を演じる喜びを語る彼の話に、僕はすっかり魅了されてしまった。