2012/04/23

ザ・ケネウィックマン・エクスペディション、22日目



日の出前午前四時に起きると、テント内の温度計は十五度を示していた。ヘッドライトを灯して出発準備を始め、五時間後の午前九時にカヤックを漕ぎ出した。



両岸にそそり立つ優に百メートルを超える断崖は、コロンビア渓谷を下れども下れども、まるで回り灯籠のように終わることなく続いていく。渓谷が後方へと流れゆくさまをカヤックの上から丸一日眺めていても、飽きるということがなかった。人の手が造る景観はどうしても単調で飽きてしまうが、自然は造形に無限の創造性を持っているのだろう。刻々と移り変わる断崖の姿に見入るばかりだ。流れゆく今を無心に楽しんでいた。

乾いた空はどこまでも碧く、渓谷の茶色い岩肌に映える。太陽の強い光は、色彩を、明暗を、生死を際立たせる。風のない時は滑らかな水面をパドルで漕いで楽しみ、風が吹けば帆走の爽快感を楽しんだ。



二十キロメートル進み、小さな公園に上陸してテントを張った。

連日の疲労が蓄積してクタクタだった。「何でこんなことをしているのだろう……」という思いがふとよぎる。日本やアラスカへの道筋が遠く霞み、コロンビア川河口ですら「もし行けたら凄い」と思えてしまう。

だがそのような思いを長い旅の途中で何度も味わうだろうことは、計画段階からすでに織り込み済みではあった。また中途半端に疲れている時にそう感じるのだろう。本当に限界ぎりぎりの状態で戦っている時には、馬鹿な行為をしている自分に笑いと快感を覚えているか、まだ生きている喜びを噛みしめているか、泥のように眠っていることを知っている。

丘の上から眺める、西に沈みゆく夕日と東に霞みゆく渓谷が、あまりにも壮麗だった。すでに川を下り始めることまではできたという満足感と相俟って、ここで死んでも本望だとすら思えたる夕暮れだった。