Sunday, October 11, 2015

谷知坊主






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 テントから三十歩ほど歩いた所に湿地があり、谷地坊主が五つ六つ地面から生えている。妖怪の頭のようだ。広葉樹の紅葉した葉っぱが散らかって彩り豊かな地面は、スポンジのように水を湛えている。地上の生命を支える豊かな水源。
 いまや日本の河川では、おおかた、湿地は田畑や住宅地へと作りかえられ、広葉樹は伐採されて杉が植林され、いま僕の目の前に広がっているようなみずみずしい大地を失っている。降った雨が、昔のように地面に吸われることなく、テーブルを滑るように直接川へと流れ込み、瞬く間に川を増水させる。それはどこかで読んだ頭の中だけの知識であるが、なるほど、足もとでぐちゃぐちゃと音を立てる地面が、このことだよと体を通して教えてくれた。

 秋色に染まった葉が水に濡れたテントに張りついて、無機質な明るいオレンジ色のテントを大地に溶け込ませようとしている。今日は雨が降っている。タープを張って、テントの入り口に快適な軒下を作った。これで、外で煮炊きができるし、テントの入り口を開けて雨を眺めることもできる。

 夜まで降り続く雨がテントを叩く音に、暗闇のなか聞き入っていると、音の位置がだんだんと不明瞭になり、空間へと広がっていく。体がテントの薄い生地を通り抜けるようだ。

 薄い霧の向こうに星が霞んで見える雨上がりの夜空の下で、ほうほうと一羽の鳥が鳴いている。


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