2015/10/21

遠吠え






今日はかなり冷え込んだので、日中カヌーを漕いでいるときに、いつもは着ていなかったフリースの上下を着込んだ。風が冷たい。冬が一歩一歩近づいているのがよく分かる。
 夕暮れ前に新しい野営地でテントの設営をしていると、エゾリスより三四倍大きくて真黒なミンクが、キーキーと鳴きながら二匹で枯れ葉を踏みならし追いかけっこを始めた。今日は動物との出会いが多い日だ。
 日が暮れると遠吠えの大演奏会だ。中流域に入ってますますその数が増えてきた。狼の亡霊としか聞こえない遠吠え。熊としか聞こえない雄叫び。
 しかしその暗闇の恐怖にもだいぶ慣れてきた。心があまり恐怖だと認識しなくなってきている。ただ自分のテリトリーを主張してむだな争いを避けようとしているだけのこと、と感じるようになってきた。僕のテリトリーの近くで鳴かれることはまだない。
 だから僕もたまに闇夜に向かって遠吠えをあげている。僕はここにいるよ、会いたくない人は避けてね、と。
 それにテリトリーの主張という理屈だけではない。長い、森に響きわたる遠吠えをあげると、むずむずした心がすっきりするのだ。ほかの動物連中だって、やはりテリトリーを主張しようと理屈で考えて吠えているのではない。心がそう動くから吠えているだけなのだ。ここは人間の僕も、心のむずむずに従った方がよい。ここは原野の中なのだから。


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