Saturday, October 24, 2015

遡上



 待ちに待っていた太陽が昇った。十三時間も何もせず寝袋にくるまっていたのだ。

 右岸にリスのような体つきで、それよりも四倍ぐらいの大きさの真っ黒い動物が一匹現れた。ミンクだ。
 今回は単独行なのでいつも先頭だ。なのでなおさら動物に出くわすことが多い。パドルを漕いで前進しているときは水音をたてるが、川の流れにまかせてパドルはただ舵を操るだけにしていると、ほとんど物音をたてることがない。なので水辺の動物を観察するにはうってつけの手段だろう。

 人生は川の流れそのものだと思う。人生は大きく蛇行しながら流れる。流れる場所は地形や樹木しだいだ。想像してした、あるいは想像している場所には、水が流れることはないだろう。私という存在が唯一できることは、川の流れを恐れずに飛び込んで、流れの先で展開する想像だにしなかった出来事を、しっかりとその目を開いて見つめ、オールで舵を取ることだけだ。そして川とは何かを理解するのだ。そのときはじめて創造という海へ流れ出る。

 昨日下った湿原を、今日は川の流れに逆らって遡上してみた。マスの気分である。流れは速く、日は短く、雨は降るわで、チョコレートをエネルギー源に休む暇なく漕ぎ続けた。

 ベカンベウシにくると毎回野営をするお気に入りの場所に、今回もテントを張った。湿原を望み、テントを張りやすい少し開けた草地がある、夕日にベカンベウシ川が映える素敵な場所だ。
 雨上がりなので蛙の来客が多い。二三センチの小さな茶色い蛙が、入れてくれと言わんばかりに、テントの出入り口の布に三匹も昇ってきた。別の場所に放そうと捕まえると、手の平の上で大人しくしている。

 ここでも川エビが穫れる。川岸の水が淀んでいる場所に集まっている。炊いたご飯を餌として沈めておくと、さらに集まってくる。三四十匹は穫れただろう。

 面白いことに湿原の土には石ころがない。テントを張るときにペグ代わりにした長い鉄串が、何本さしても根本まですっと土に入るのだ。堆積したアシが土になったのが湿原なのだということを、机上で学ぶだけではなく、本当にいま体験しているのだ。


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