Tuesday, October 27, 2015

菱の実








 ベカンベウシ川の中流と下流域はラムサール条約の湿地となっており、今日はその下流域を下った。
 百羽以上で群れていた白鳥が、僕のカヌーが二百メートルほどまで近づくと、バタバタバタと大きな音をたてながら翼の端で水面を叩き、一斉に空へと舞い上がった。体の大きな白鳥が群れて飛び立つ姿は圧巻で、もう何かを考える余裕を持たせてはくれず口をぽかんと開けるようにただただ見入るしかなかった。くぉくぉくぉっと鳴き交わす声が湿地全体に広がる。水面には白い羽毛が無数に浮き散らばっていた。僕のカヌーの中にもいつのまにか真っ白な羽が一枚、出会いのプレゼントのように舞い落ちていた。
 厚岸町立水鳥観察館はベカンベウシ川沿いにあり、カヌーで直接訪問することが出来る。学芸員の渋谷さんに挨拶するためと、今夜はそこでテントを張らせてもらうために上陸した。
 ベカンベウシとはアイヌ語で「菱の実があるところ」という意味であるが、今回下った際に探してみたものの見つからない。渋谷さんに聞いてみたら、じつは地元の人もいままで菱の実を見たことがなかったそうだが、去年ベカンベウシ川の支流であるフッポシ川で渋谷さんが菱を一株見つけ、今年はその場所に群生していたそうだ。実物を見せてもらったが、なるほど確かにマキビシであって、踏むと痛そうである。ちなみに時期的にはもう遅くて、九月の半ば頃に実を付けるらしい。
 
 僕が一昨日体験した暴風は、どうやら大きな低気圧が北海道を襲っていたらしい。ベカンベウシ川に入ろうとしていた日にも台風がかすめたし、北海道の気候がだいぶ変わってきているとのこと。さらに地上よりも海水温の方が温暖化の影響を強く受けていて、海表面で二度ほどはあがっていて、中層ではもっと温度が上がっているそうだ。なので地上の動植物よりも魚の生態に影響が深刻で、温度が上がったため放流した鮭が北海道まで戻ってこないらしい。昔は冗談混じりに、青森の大間のマグロがそのうち北海道にやってくると話していたらしいが、今は本当にくるそうだ。鰯もまるまると太ったやつが穫れるとか。
 昨夜まではテントの中で丹頂鶴の鳴き声を楽しんでいたが、今夜は白鳥が鳴き交わす音が聞こえる。今夜もよい夜になりそうだ。狸の来客はなさそうだが、ついさきほど鹿がやってきた。


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