CERN研究所(欧州原子核研究機構)は、年間約1,000億円もの巨大な予算が投じられて、20ヶ国により共同運営されている。いったいここで何が研究されているのであろうか。ここでおこなわれている素粒子物理学研究のあまりにもエキゾチックな世界を、ご飯を炊くエネルギーを通して垣間見てみようと思う。
反物質という言葉をSF小説や映画の中で聞いたことがないだろうか。宇宙戦艦ヤマトの波動エネルギーやUFOの反重力装置は空想科学であるが、反物質は実在する。ところが実在するにもかかわらず我々の周りに反物質は存在せず、人間が宇宙の真理を追求した結果その存在を数式から予測し、極々まれに宇宙から地上に飛来してくる反物質の粒子を発見してその存在を確認したという、なんともエキゾチックな物質なのである。そしてついに1995年、人類は英知を結集し、CERNで反物質を人工的に作り出すことに成功する。
反物質は、我々の周りにある通常の物質とは電荷、すなわち電気的な性質が全くあべこべであるが、その他の性質は同じである。そして反物質が通常の物質と出会うと、通常の物質もろともその存在が消滅し、同時に莫大なエネルギーを放出する。この「消滅」という現象は、日常生活では目にすることが無いあまりに特異なものである。目の前に置かれた100円玉が、ある日忽然と姿を消すことがあるだろうか?木は燃えて無くなるが、あれは水と二酸化炭素に分解されて空気中に飛散しただけであり、それらすべてを捕獲して重さを測れば、燃やす前の木と燃やすときに消費した酸素を足し合わせた重量になる。車が錆びていつの日か無くなるのも、たんに錆びて細かい塵になり風に飛ばされて分散するだけのことである。ところが反物質の「消滅」は、完全にその物質の存在がこの世から失われ、その代わりとしてのエネルギーが生まれる。質量がエネルギーに変換される、すなわち質量とエネルギーは等価であることを導き出したのは、かの有名なアインシュタインである。
さて、ご飯を1合炊くのに15グラムの灯油が必要であるが、同じ15グラムの反物質をCERNで作ってご飯を炊き比較してみよう!……無理である。現在の技術ではどんなに頑張っても反物質の原子をたかだか1秒間に数万個作れるだけであり、15グラム用意するには数千億年はかかる。しかも通常の物質と出会うと瞬時に消滅するのであるから、入れる容器がこの世に無い。でも反物質という宇宙の神秘がどの様なものなのか、感覚的に理解したいではないか!反物質を15グラム用意しよう。
アインシュタインの方程式として有名な
は、
であり、反物質15グラムと一緒に消滅する通常の物質15グラムを足し合わせた30グラムをこの式に代入すれば、反物質15グラムが消滅した時に放出されるエネルギーが、6千450億キロカロリー(645,000,000,000キロカロリー)であることが計算される。ご飯を1合炊くのに必要な160キロカロリーで割ると、40億合(4,000,000,000合)のご飯が炊けることになる。朝昼晩と1合づつ食べて、人生80年として、人生4万6千回分(46,000回分)のご飯……。う~む、もう想像の域を超えていてピンとこない数字である。 370万年分のご飯であるから、もし時間を遡るならば、なんと初期人類のアウストラロピテクスに会うことが出来る。
「世界とは何であるか」と哲学し、ついにはこの反物質を創りだすまでに至ったわずか1,400gの人間の脳には、ただただ驚愕するばかりである。
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