ケネウィック市から六十キロメートルほど下流にあって最初の大きな障壁となるマクナリダムや、そこに至るまでにキャンプができそうな上陸箇所へ、フィルが一日かけて、彼の白い大型バンで僕を下見に連れて行ってくれた。
ケネウィック市から離れて眺めるコロンビア川もやはり壮大で、赤茶けた大地に大きな溝を切り、まるで碧色の湖のように横たわっていた。日本の川と比べれば、スケール感は優に十倍以上あった。実際に、コロンビア川の流量は利根川の二十六倍にもなる。
空は澄み蒼く、空気は乾燥し、風に吹かれて転がり種を撒き散らすタンブルウィードが道端に落ちていた。何を見て植えつけられたイメージなのか、僕にとっては、アメリカ西部の砂漠地帯といえばタンブルウィードとサボテンであったので、初めて見る実物のタンブルウィードにいたく感動した。
マクナリダムがフロントウィンドウ越しに見え始めてきた。
巨大なダムから放水された大量の雪解け水は、轟音と水煙をあげながら落下して、ダム下流では荒れ狂う海の岩礁のごとく激しい波が入り乱れていた。今年の積雪量は多く、雪解けの水量は昨年の倍はあるとのことであった。
自然は、創意工夫次第で挑むものを受け入れる余地を見せてくれるが、人間が創造した巨大な建造物は、カヤックなど冷徹に拒絶する。川幅一杯二キロメートルに渡って横たわるコンクリートと鉄から造られたダムは、自然と人智の異様なコントラストを際立たせていた。