フィルと奥さんのエレインから、彼らのヨットでクルージングしないかと誘われていて、僕はとても待ち遠しく思っていた。午後三時半、ケネウィック港をヨットで出発すると、コロンビア川へと入って行った。
雨上がりの空に強い西風が吹き、川上へと進路をとったヨットに対しては向風となっていた。雪解けの水流も早かった。風も水も進行方向から強く流れてくるので、ディーゼルエンジンをフルスロットルで唸らせ、メインセイル(後の帆)とジブ(前の帆)を張る。風に向かって右六十度に進み、川岸に突き当たれば左六十度へと転換して、ジクザグと深く切り返しながら進んだ。フィルとエレインは、切り返しの度に声を張り上げ協調しながら、煩雑な帆の操作と操舵を同時にこなしていた。
ケネウィックマンが発見された場所から少し上流まで川を遡ると、川下へと百八十度折り返して帰路に就いた。ディーゼルエンジンを切ると、エンジン音も風音も途絶えて静寂に包まれた。今度は風も水もヨットも、川下へと同じような速度で流れる。帆は風を受けて膨らまず不安定で、不意にものすごい勢いで左右へと翻り、注意を怠っていると帆のアルミフレームで頭を飛ばされてしまいそうだった。
僕はまだヨットの操舵などしたことがなかった。複雑な帆の構造や、煩雑な帆の操作、風を受けた帆の動き、風に対するヨットの動きなどをつぶさに観察した。五日前に生まれて初めてカヤックを帆走させたばかりなので、この先の遠征でカヤックの帆を操る際に役立つ貴重な体験となっているのは間違いなかった。