マサコさんがまたテントまでお握りを持ってきてくれた。日本を離れて食べるお握りは、何度食べてもうまいし、元気が出てくる。
昨日は旅の初日といえどもケネウィックマンが発見された場所からテントへと戻るだけの行程だったので、カヤックは空荷で帆も張らず出発準備はとても楽であったが、今日はテントから下流への大移動であり、全ての装備と食料をカヤックに詰め込み、帆も張るため、出発準備はさぞ大変だろうと覚悟はしていた。マイクには、「できれば午前十時ごろには出たいものだ」と話していた。
午前六時から準備を始めた。半年分の装備や一か月分の食料などの厖大な荷物を、カヤックの中にすんなりと納め切ることができない。コクピットと二か所の小さいハッチから荷物を押し込まなければならないが、複雑に組まれたカヤック内部のフレームが荷物に引っかかり邪魔をする。その上、装備や防水バックはそれぞれ形状や大きさが様々であるが、空きスペースを極力少なくしながら複雑な形状のカヤック内部に収納しきるのは、まるで立体パズルのように難しい。荷物を入れる場所や入れる順番などを、何度も何度も変えては試してみた。荷物を全部詰め切れないのでは……と焦り始める。マイクは朝から、僕が四苦八苦している様子を傍らで見守っている。休憩なしで汗だくになってやり続けたが正午はあっという間に過ぎてしまい、内部に収まりきらない荷物をその場しのぎでカヤックの上にくくり付けてどうにかこうにか出発した時には、すでに午後四時になっていた。出発準備に十時間もかかってしまった。
しかしいったん水上へと漕ぎ出してみれば、全ての疲れは嘘のように吹き飛び、心は水の上に浮く喜びに満たされ尽くした。