激しい風がテントを揺さぶり、砂地に打ったテントを固定する杭がことごとく引き抜かれていく。川面にはワタを散らしたような白波が一面に立ち、大木は揺れ動き、風に逆らって歩くのは困難だ。風速は十四から十七メートル毎秒ほどか。この西から吹く風は、川を下るカヤックに対しては向かい風となる。この強風下では、カヤックに帆一式を取り付けて風とパドルで漕ぐ力の両方で進むのも、帆一式を取り外して漕ぐ力だけで進むのも無理だろうと思われた。マリン無線で聞くことができる英語の天気予報は、聞き取るのが難しくて内容が良く掴めない。ニコラスからの情報では、その風は翌々日まで続くとのことであり、その日の夜に漕ぎ出そうかと考えていたものの、少なくとも翌日の夜も此処に停滞しなければならないようだった。
まだ空は明るい午後六時過ぎ、マットがスズキのバイクを颯爽と乗りこなして補給物資を持ってきてくれた。青りんご、赤りんご、バナナ、オレンジ、エナジーバー、キャンディー、お菓子、オレンジジュース、水、そしてブランディー。パスコ市長であるだけでなく、バイクで三千キロメートル以上を二十四時間で走りきるような冒険家でもあるマットは、毎日乾燥食品ばかりを食べている僕が何を欲しているのか良く理解してくれていた。風を避けて狭いテントに潜り込み、まるで二人でキャンプに来ているような楽しい時間をしばらく過ごした。