その日も移動することなく同じ場所に留まり、風が止むのを待った。
狭いテントの中に一人閉じ込められていると、計画の遅れから出発を焦る気持ちが生じてしまう。挑んでいる相手は自然である。冷静な判断力を保たなければならない。
この強い風と高い波を求めてやってきたウィンドサーファーのリチャードが、一緒に夕食をとらないかとテントまで誘いに来てくれた。セミリタイアしたリチャードは前年にキャンピングカーを買ったばかりで、奥さんのナンシーと二人、旅とウィンドサーフィンを楽しんでいるそうだ。ナンシーがポークステーキを焼いてくれて、快適なキャンピングカーの中で夕食と会話を楽しむ。乾燥食品ではない「生きた」食事は、体に染み入るほどに美味しい。そして快活で素敵な二人だった。彼らは庭の野菜がハリネズミに食べられていないか心配なのだが、そのハリネズミがあまりにも可愛くて憎めないそうだ。