午前五時、風が少し治まってきたので出発の準備を始めた。テント内の気温は九度。
五時間かけて出発準備を終え、午前十時前にカヤックを川へと出す。しかし約十一メートル毎秒の強い向風に負けて、川下へと前進することが難しい。
強い風を一杯に受け止めて帆がはち切れんばかりだ。アルミパイプ製のマストがしなる。カヤックが帆に受けた風で大きく傾いて、コクピットの風下側は水面下に沈み、スプレースカートとコクピットの隙間から水が浸入してきた。傾きを抑えているアウトリガーは、半分ほど水に沈み込む。このままカヤックが引っくり返るのではないかと、何度か背筋に悪寒が走った。
水の流れている方向へ進もうとしているのに、カヤックは風に押し戻されて、川幅方向に移動するばかりである。十分間で五十メートルほどしか下流方向に進めず、向風の風速が約十一メートル毎秒ではこのカヤックの性能限界を超えていると感じたので、今日の行動は諦めて陸へと引き返した。
ここルーズベルト公園では、ウィンドサーファー達と僕との間に自然と仲間意識が生まれてきていた。ウィンドサーフィンとカヤックは全く異なるものだが、僕らは同じように何日もキャンピングカーや普通車やテントで夜を過ごし、風を読み、風を待ち、風に挑む。今日風に一番乗りした僕を祝おうと、ロジャーのキャンピングカーで、キャリーとロジャーとジョンと僕の四人は、バハ・カルフォルニアのウィンドサーファー式に一口だけ飲んだ瓶ビールにライムとテキーラを入れて乾杯した。