1週間以内の冬季を除いたキャンプであれば、着火するのが遥かに簡単なガスカートリッジ式のバーナーを使ってもよい。ガス栓を捻って火花を飛ばすボタンを押すだけで、ライターのように着火できる。しかしながら専用のガスカートリッジはアウトドア用品店に行かないと買えないのでキャンプをするような田舎や山では入手できず、また値段もかなり高く、氷点下では火力がとても弱いというデメリットが伴う。それにこれは灯油バーナーにも言えることだが、不安定に風が吹く外での調理は火力調節が難しく、かなり慣れていてもまれにご飯を焦がしてしまうようなことがある。
灯油やガスよりも使い勝手のよい新しいバーナーを、電池をエネルギー源にして作れないものかと友達に聞かれたことがある。その発想は確かに理解できる。電気であれば、スイッチひとつ入れるだけで電気炊飯器のように自動制御で焦がすようなことがなくご飯が簡単に炊けるだろうし、太陽電池シートを持っていけば充電できるので長期キャンプの際には燃料の入手で頭を悩ましたり大量の燃料を持ち運ぶ必要もなくなるし、乾電池も使えたらさらに便利だ。
ではその実現可能性を検討してみよう。先に我が家の軒先で実験をしたところ、ご飯を1合炊くのには灯油を15グラム消費することがわかった。そこで比較のために、同じ15グラムの電池でご飯を炊いてみることにする。
僕が使っている携帯電話のリチウムイオン充電池がちょうど15グラムだったので、これでご飯を炊いてみる事にしよう。しかし、電池で動く炊飯器なんていったいどこで売ってるのかって?心配無用。電池に記載された表示をよく見てみると、そこには「3.7V 830mAh」と書かれている。これがこのリチウムイオン充電池に詰まっているエネルギー 量を表す数字なのである。これじゃあなんだかよく分からないので、日常生活でよく目にするエネルギー単位のカロリーに換算してみると、2.6キロカロリーとなる。それでもやっぱりピンとこないよね。この15グラムのリチウムイオン電池のエネルギー2.6キロカロリーと、15グラムの灯油を燃やしたときのエネルギーを比較してあげれば、15グラムのリチウムイオン電池で何合のご飯が炊けるのか計算できることになる。さて御立会い。いったいどのぐらいのご飯が炊けるのか。なんとたったの小さじ一杯分である……。灯油やガスのかわりに電池でご飯を炊くことは、物理的に無理であることがわかる。
いま世の中は、化石燃料を使わないエコな電気自動車の話題で持ち切り。一刻も早く普及しないものかと思うし、それならば船や飛行機なんかも石油を使わずに電気で動かせばいいのに、なんて考えてしまう。だがしかし、ご覧の通り15グラムの石油でご飯が1合炊けるのに、15グラムの充電池ではたったの小さじ一杯分のご飯しか炊くことができないのである。言い換えれば石油には大量のエネルギーが詰まっているのである。石油が人類に繁栄をもたらし、人類が石油を手放すことの出来ない理由がここにある。
充電池の中でもっとも性能が良いリチウムイオン充電池は、最近やられっぱなしの日本における残された数少ないお家芸。いまエンジニアが日々必死になってより高性能なものを開発している。でも環境破壊のスピードに対して技術革新のスピードは、間違っても十分であるとは言えません。頑張れエンジニア!地球のために。