東京にはそこに住んでいる者にすらほぼ知られることのない、迷路のように入り組んだ運河がある。江戸時代に海運のため利用されていた。荒川と隅田川と東京湾に囲まれた、満潮水位より低い江東三角地帯にその一部がある。そこをカヌーで漕ぎ、花見をした。両岸に咲き乱れる桜並木の枝が、運河内へと大きく枝垂れ込み、水面には花びらが浮く。枝の下を潜ってカヤックを漕げば、何処までも続く桜のトンネルである。風が吹けば桜のトンネル内に花吹雪が舞う。ほとんど訪れる者がいない運河という花見スポットは、しかしどこよりも壮観で、また独りで独占状態なのである。
さらに扇橋閘門という、船のエレベーターとして機能するパナマ運河の小型版を、なんとカヌーで通過し楽しんだ。東京湾の満潮時よりも運河周囲の地面は低いため、町が水没するのを避けるために、運河は水門で仕切られ人為的に水位が下げられている。しかしそれでは隅田川や荒川から運河内に船舶が出入りできないため、扇橋閘門と荒川ロックゲートという二つの閘門が設置されている。この閘門は三階建ての建物ほどもある大きな鉄の扉を二つ持ち、その扉で仕切られた運河に船を浮かべたまま水位を上げ下げする。いわば船のエレベーターだ。満潮時には2.5メールほどにも水位が変化する。そしてカヌーが一艇であってもタダで使用させてくれるのである。ど迫力のアトラクションである。
カヤックとはどのように漕ぐのか、川を塞ぐ倒木をどのように乗り越えていくのか、北海道の原野の川を、何日もかけて一漕ぎ一漕ぎ進んでいく様子がよく伝わってきます。体験したことのない世界へようこそ。