まだケネウィックで出発準備をしていた時、ケネウィック港で知り合ったヨット乗りのフィルは、僕のためにコロンビア川の様々な情報を集めてくれた。そのことを切掛けにして、アウトドアショップを通して遠く離れた菅信行さん(ノブ)の所まで僕の話が伝わり、彼の方から何か手伝えることはないかと電話をかけていただき、そして僕の到着をここバンクーバーで待ってくれていた。フィルの愛情がノブに伝搬していったのである。そしてなんと初対面であるというのに、ノブと妻の律子さん(リッチャン)は、五泊六日ものあいだ僕を家に泊め面倒を見てくれた。
彼らはまず、ポートランド市街へ上陸できずにコロンビア川を彷徨っていた僕を苦労しながら探し周り、翌日にはポートランドからバンクーバーにある彼らの家までカヤックを運んでくれる。
ノブはからっとした気性で、アメリカに良く馴染む逞しい男だ。そしてリッチャンは美人で優しく、彼女が作ってくれる繊細な旨みを含んだ日本食はたまらなく美味しい。毎晩ノブが仕事から帰ってくると、食卓を囲んでその旨い夕食を楽しみ、そして覚えきれないほどに種類が豊富なアメリカの地ビールを飲み比べる。それだけでも贅沢なもてなしであるというのに、昼間はリッチャンが買い物に付き合ってくれたり、一日がかりでボネビルダムまで観光に連れて行ってくれたりと心温かい。そして可愛い娘のユウナや、わんぱくで元気な息子のアキヤと遊ぶ。おかげで、一ヶ月半に渡り小さなテントで暮らし続けた体が癒されてエネルギーがたっぷり注がれるとともに、食料や足りない機材を購入することができた。
そしてまた、ケネウィックで友人となったマットが、バンクーバーに住むバイク友達のデニスを紹介してくれて、デニス夫妻と夕食を共にすることができた。やはり愛情が伝搬していく。彼はたったの九日間でハワイを除くアメリカ全州をバイクで走破したという、想像しがたい強者である。アメリカの遊びはなんともスケールが大きくて魅了されるばかりである。彼らのおかげで素敵な時間を過ごすことができた。