アメリカのシアトル空港に降り立つと、アドレナリンが血管を走り始めた。これから、第一番目の大きな関門となる、入国審査をパスしなければならない。十年の観光ビザを大使館からなんとか貰えたものの、実質の入国可否と滞在期間は、入国審査官の裁量で決定する。失敗すれば、会社を退職してまで決行した計画が、まだ出発地点すら踏んでいないのに、一瞬で消滅する......
別室に連れて行かれた。
相手は、言葉や仕草の機微を見抜くプロだ。嘘や誇張は全く通用しないだろう。遠征計画書と預金残高と新聞記事を提示し、遠征の全容を有りのまま、事細かに説明する。しかし、ちりぢりに散らばっている英語の知識を拾い集めながら、たどたどしく、だ。審査官は眼光鋭く、「ルートは?」、「スポンサーは?」、「収入は?」、「カヤックは?」と、次々に質問を投げかけてきた。
面接に三十分掛ったが、一年間の滞在許可が下りる。「通常は最大六ヶ月、今回は特別。申し訳ないがそれ以上は無理です」と、笑顔に変わって伝えてくれた。