2012/04/09

ザ・ケネウィックマン・エクスペディション、8日目



カナダで五日前に購入したカヤックを、三時間ほどかけて初めて一人で組み立てた。長さは五・四メートル、幅は六十一センチメートルと細長く、船首は鋭く切れ込み、スピード感溢れた機能美を持つ。今まで物に名前を付ける趣味はなかったのだが、これから長いあいだ命を預ける船なので、より愛着を深めるためにブラックバードと名付けてみた。商品名はヘロン(鳥のサギ)でカラーは黒一色を選んだので、ブラックバードである。

日差しが傾き暑さが和らいだ午後五時、ブラックバードの処女航海を試みた。

カヤックをテントから水際まで転がすために、車輪二つとアルミパイプというシンプルな構造のカヤックカートを組み立てようとしたとき、なんとその部品が一つ不足していることに気付いた。カナダで購入した時は、カヤック本体の組み立てチェックで忙しく、カートにまで注意が向いていなかった。カナダから部品を取り寄せ、届くまではここケネウィック市で待つしかない……

ヨットハーバーの静水にカヤックを浮かべた。パドルを水に差し込み軽く後方へと押し出すと、カヤックは音もなく水を切り、スッっと滑らかに進んだ。カヤックの切っ先を頂点とした鋭角な三角形の波紋が、漆喰にヘラで線を入れるように、二条、後方へと静かに延びた。