グランドストリームの大瀬志郎さんを訪ねて、琵琶湖の北西岸にあるマキノ町へ行く。湖岸にある小さな集落のメインストリートから逸れて細い脇道をわずかに登ると、所狭しとカヌーが詰め込まれた築100年は経っているであろう黒光りする古民家が目に飛び込んできた。見せていたたげないかと事前に連絡しておいたホールディングカヤックは、蹴飛ばせば1メートルほど下の畑に落ちてしまう道路脇にすでに二艇並べてあり、長髪の日焼けした顔とがっしりとした体格をもつ大瀬さんが、誰かが何かの配達にでも来たのかと家からひょっこり出てきた。
琉球の伝統的な船であるサバニの帆をホールディングカヤックに立てたマストに取り付け、時折強く吹き付ける風に帆をばたつかせながら、西洋のいわゆるヨット型の帆と比較してのその扱いやすさを熱のこもった言葉で彼は語る。このカナダ製のカヤックにはヨットと同じ構造と素材で作られた三角形の帆が標準オプションとしてあるため、僕の頭の中ではヨット風のイメージがすっかり形作られており、布と竹で作られた凧のような純和風の帆が西洋のアルミと原色の樹脂シートで作られたカヤックに取り付けられたとき、初めはどうにも異質に思われ、ただ単にヨット型の帆に飽きた場合の遊びとしての選択肢の一つ程度のようなものと思われた。しかしながらも、凧のような素材で凧のように扱うサバニの帆がいかにカヤックと相性が良いか彼から説明を受けているうちに、フムフムなるほどと頷きながらすっかり以前のイメージは影を薄めていった。
寒風を避け土間に置かれた木のテーブルでコーヒーをすすりながら、島国日本で生まれた誇り高き航海術の一つであるサバニを誇り、国境のない広大な海で過去様々な地域の航海術が混じりあってきたように、今また自分が北極圏で生まれたカヤックと琉球で生まれたサバニを融合させる役割を演じる喜びを語る彼の話に、僕はすっかり魅了されてしまった。