2016/04/15

Winter Mt. Fuji Climbing 冬季富士山を登る

 冬の富士山でトレーニングをしてきた。二週間前の木曽駒ケ岳に引き続いて、相棒は川崎隆介。一緒に自転車で山頂まで登ったことはあるが、冬の富士は二人とも初めてであった。

 この映像は360°動画なので、マウスで画面上をドラッグして見る方向を変えてほしい。八合目で撮影した。

 さすが日本一の高さを誇るだけでなく、一山だけ孤高にそびえる山である。紺碧に晴れ渡る空の下に広がった、輝く雪に一面覆われた急峻な山肌、絨毯のように広がる白い雲海、太陽を反射する駿河湾の美しさは、他に類を持たない。そして、来るものを徹底して拒む冬の強烈な西風と寒さ。一昨日に登山者が滑落死したばかりでもあった。

 冬の富士の魅力。これもまた、けっして登った者にしか分かりえぬものなのだろう。

 1,840メートルの三合目から登りはじめて、六合目にテントを張った。翌朝ご来光を眺めてから



再び登り始めた。六合目と七合目の間



七合目と八合目の間



と、順調に登り続けた。

 森林限界を越えているので、岩と雪と氷と空だけがある。僕と隆介の二人だけが息をしている無生物の世界なのだが、地球全体が大きな生命のように感じ取れる。空からというよりも宇宙から降り注ぐ太陽の、直接の光と、雪と氷に散乱した光に包まれて、浮くように眩しい。

 高度を上げるほどに風速も上がり、しばしば吹く突風に、両足と手に持ったピッケルの三点でしっかりと体を固定していないと、風に持っていかれる状態だった。固く凍り付いた斜面では、靴先に二本ある爪と、手に持ったピッケルの先端を氷に突き刺して、全体重を支える。しかしバランスを崩して爪が外れれば、30°傾斜した氷の滑り台を一キロメートルも滑り落ちるようなもので、止める手段もなく何処かに激突するまで加速し続け、間違いなく足で山頂へ登るよりも早く昇天してしまう。慎重さと軽快さのバランスが重要だった。

 3,250メートルの八合目まで登るものの、見上げてもまだ山頂は見えなかった。登れば登るほどあきらかに風は強くなっていて、突風に体が浮き上がってしまえば、もう登山技術以前の問題で、熟練者であっても滑落死するしかない。あと数時間で辿り着くだろう山頂の気配、死への恐怖、ここまで登ってきた深い満足感、心が空になる美しい地球の眺め、それらの複雑で豊かな気持ちを味わいながら、ここで登るのを辞めることにした。



 とはいうものの、強風の予報を眺めながら、出発前日に「まあ、まずは行ってみないと分からないし、ちょっと様子見のドライブだね」と二人で連絡し合っていたのでもあった。七合目あたりを登りながら、「子供と一緒じゃん!あとちょっと行けるかも、あとちょっと行けるかも、と言いながら登っているよ!」と、笑い合っていた。

 子供の遊び心を持ち、大人の判断力を備えたいものだ。

 これは富士山では滅多に見かけない、シリセードという遊びである。


 
 テントのグランドシートは、強風に激しくバタついて穴が空いてしまった。八本爪の旧式のアイゼンは、運よく、ちょうど六合目まで降りてきたときに、留め金の金属が飛んで完全に壊れてしまった。アイゼンなしでの下山は想像することができない。過酷な山だ。運も実力の内か。

 追記1: 実験として、全行程の食事、一日目の昼食と夜食、二日目の朝食と昼食を、カロリーメイト四箱だけにしてみた。水分も水だけ。他は一切口にしていない。結果としては、合計1,600キロカロリーで、三合目から八合目まで登れたことになる。

 追記2: 親父の使っていた30年前の古い革製登山靴は、先日の木曽駒ケ岳で靴底が両足共に剥がれてしまったが、シューグーという靴用接着剤で貼り直して、今回の登山でも履いてみた。アイゼンを装着して、またアイゼン無しで歩行したが、いまだしっかりと接着されている。

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 I trained on winter Mt. Fuji!

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