2015/10/12

焚き火で肉の塊を焼く

















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 昨日は日がな一日雨降りだったが、今日は日が射し日中は長袖シャツ一枚でもいられる暖かい陽気だったので(夜は吐く息が白く、たぶん五度以下だろう。寒暖の差が激しい)、早朝から日が暮れるまで、丸一日がかりで保存食作りにいそしんだ。調理したのは、厚岸の町で買った厚岸産黒カレイを2枚(1枚99円)と、宗八カレイを3枚(1枚127円)と、ハタハタ丸干しを5匹(5匹で197円)と、オーストラリア産牛バラ肉ブロックを1キログラム(1キログラムで1,778円)である。
 
 保存食作りには焚き火を使う。薪はいくらでも落ちている。森の中でキャンプをするときは、売店で薪を買う必要はないし、拾い集めるのに遠くまで探し回る必要もない。
 ただし、昨日の夜まで降り続いた雨で濡れてはいるが。
 
 焚き火を燃やすには事前の準備が肝心だ。火を着ける前に、火の着きやすさに応じて区分けした薪を、すなわち太さごとに分けた薪を、あらかじめ必要な量だけ拾い集めておくのである。火がちょろちょろと着き始めてから慌てて薪を探し集めるのでは遅すぎる。炎が大きく燃えさかるまで一気に育てる必要があるのだ。そして真っ赤に燃えた炭が大量にたまって焚き火が安定するまで、炎の勢いを止めてはならない。
 いったん赤く燃える炭、すなわち熾火がたまれば安定した熱量が得られるので、薪を探すために焚き火から離れて、その隙に炎が小さくなってしまっても、薪を新たにくべれば容易に炎が復活するまでになる。
 
 ティシュペーパー一枚で火を着けたければ、まず容易に着火するものを探し集める。北海道の原野では、油分を含んで燃えやすいシラカバやダケカンバなどの樹皮が、立ち枯れた木や落ちている枯れ枝から剥がせば容易に集まる。サッカーボールぐらいの分量を集めれば十分だろう。
 次に燃えやすいのが爪楊枝ぐらいの太さの枯れ枝である。これもサッカーボールぐらい集めて纏めておく。
 拾ってきた枯れ枝を手足で折って、小枝よりも少し太い割り箸ていどの枝、さらに太い枝と、太さごとにふるい分けながら纏めておく。
 今回はシラカバの樹皮があるので、まずそれを敷いて地面を覆う。なければ枝などを敷く。その上にティシュペーパー一枚をのせて火を着ける。火が着いたらすかさず、ボール状に集めた一番燃えやすいものを全部、今回はシラカバの樹皮だが、ほかには小枝やアシなどを、皮手袋や軍手をはめた両手で挟んで、炎の上にかざす。ティッシュペーパーの上にのせてはいけない。燃焼温度の高い炎の上部に燃やすものを当てて、かつ燃焼に必要な酸素の多い新鮮な空気が下から上へと対流するのをさまたげないように、火を恐れず手に持ったまま、空中で樹皮や小枝を燃やすのだ。ここが一番のポイントである。また集めたもの全てをボール状に纏めて、一気に火を着けるのもポイントである。炎の熱が炎を呼ぶのであるから、小分けにしてちまちま燃やそうとしても、炎は大きく育たない。空中で大きく燃え始めたら、ここではじめて地面に置く。これで第一段階が終了だ。
 次に、やはりすかさず、ボール状に集めた二番目に燃えやすいものを、今回は小枝を、同様に両手ではさみ空中で炎にかざす。炎を上げて十分に燃え出したら、先に火を着けたものの上に置く。
 焚き火の教科書でよく見られるように、まず薪を組み、その下にティッシュペーパーを突っ込で着火してみても、たった一枚で薪が燃え上がるものではない。
 次はさらに太い枝を炎にくべるが、薪が直径二三センチ以上に太くなったならば、炎の上へ横倒しにして置くのではなく、薪を立てて、三角錐のやぐらを組むように炎へとくべていく。なぜそうするのかといえば、やはり燃焼温度の高い炎の上部になるべく薪をさらすのと、酸素を含む熱せられた空気が下から上へと流れる自然な動きを妨げぬように、薪の間に空間を作るためである。横倒しにして積んでしまっては、薪に酸素が供給されない。
 
 黒カレイの腹にナイフで切れ込みを入れ、川の、流れがある水の中でエラとハラワタを取り出し、そのまま流す。血や肉の匂いは熊などの動物を引き寄せるから、地面の上で処理してはならない。鱗も落とす。
 持ってきたステンレスの棒にカレイを串刺しにした。なければ適当な枝を使ってもよい。そのばあいは、落ちている枯れ枝だと串に火がついてしまうので、水分の多い生木を使う。
 牛肉のブロック1キログラムは分厚い板状で、焚き火の上で串を軸に回転させるには重心のバランスが悪いので、四つの固まりに切り分けて串刺しにした。岩塩と胡椒をたっぷりと振りかけ、たまに回転させながら全面をまんべんなく焼く。
 宗八カレイとハタハタはすでに軽く干してあるので、そのまま串刺しにした。
 
 牛肉を炎にかざすと、脂がぽたぽたと薪の山にしたたり、じゅうじゅうと音を立て燃え上がる。みずからの脂が燃える炎で焼かれるので、火力を抑えるために、火のついている薪を焚き火から抜き出さなければならないほどだ。

 焚き火で肉の塊を焼く。
 今まで休眠していた「焚き火で肉の塊を焼く」ための脳細胞が、目を覚まし、僕の動きと思考を司どりはじめる。アフリカのサバンナで生まれ、遺伝子に組み込まれた、太古からの記憶。
 
 次のヌーは何処にいる!?

 串刺しにしたハタハタは、焚き火のすぐ脇の地面に刺して立てると、はじめぽたぽたと水分を滴らせる。ゆっくりとゆっくりと数時間かけて身が引き締まり、銀色から飴色へと変わってゆく。魚が遠火で焼けるよい匂いが漂う。

 昼飯として、焼きあがったばかりの牛肉に食らいついた。焚き火でスモークされた香りと、焼かれた肉の香りと、脂のうまみが口一杯に広がり、アドレナリンが全身を駆け巡る。脂専用の味覚細胞は二百パーセントの力を発揮して働いている。がっつけ、歯で引きちぎれと、本能がわめきちらす。とてもお上品になど食えたものではない。

 日暮れ直前、炊き立ての玄米と、たったいま焚き火の周りから引き上げたばかりのハタハタを一匹食べてみる。
 なんだこの旨さは・・・・・・!おもわずうなる。
 頭から尻尾までうま味の固まりである。こんなハタハタは今まで一度も口にしたことがない。
 焚き火の遠赤外線と煙で六時間もかけてじっくりと炙られたハタハタは、まるでタンパク質のすべてがうま味に変化したかのようで、燻された香りも素晴らしい。また飴色の輝きがなんとも色っぽい。味わってよし、眺めてよし。
 たとえ炭火の遠火で焼いても、こうはいかないのではなかろろうか。これだけ長い時間をかけてゆっくりと炙り、また乾ききっていない枯れ枝の濃い煙で燻せるのは、まさに原野の焚き火にしかできない芸当なのだから。

 秋の長い夜を、焚き火で暖をとりながら過ごす。いつまでもいつまでも、集めたすべての薪を燃やし尽くすまで、飽きることなく炎を育て、飽きることなく炎を眺める。


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