2015/10/06

生きている川

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 ベカンベウシ川をカヌーで下るため、北海道へ向かう飛行機に乗っている。みな足下からお洒落な格好できめているが、俺一人だけ長靴といういでたちだ。バックは飾り気などいっさいないブルーの汚れた防水ザック。手には牛皮のどかたグローブ。

 ベカンベウシとはアイヌ言で、菱の実の集まる場所、という意味だ。秋の実なので、もしかしたら収穫できるのだろうか。茹でるとホクホクしておいしいらしい。
 まだこの川は、蕗の薹や行者ニンニクが芽吹き、時折雪が降り積もる早春しか下ったことがない。秋の様子はまったく知らない。だがその土地でこれから起こるであろう出来事を、地名から想像できるというのも面白いものだ。ワクワクする。川に繋がった、春は水芭蕉が咲いている広い沼があるので、またそこにカヌーで入ろう。もしかしたら菱が生えているかもしれない。カヌーを水に浮かせたまま、菱の茎を水中からたぐり寄せて、忍者が蒔くマキビシのような形をした実を収穫するのだ。そのまま茹でて食べてもよいし、玄米を使って炊き込みご飯にしてもきっと美味しいに違いない。楽しい想像がぽんぽんと膨らんできた。

 ベカンベウシ川は、日本最後の原始の川だ。
 上流から下流まで手付かずであり、そしてテントを張り焚き火をしながらカヌーで旅をするだけの十分な長さがある。
 「生きている」川である。川そのものが命を持っている。自由自在に思うがままに蛇行を繰り返し、毎年その姿を変えながら生命を謳歌している。そして龍神が宿った川には幻の魚イトウが住んでいる。

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