2012/05/03

ザ・ケネウィックマン・エクスペディション、32日目


風は昨日より弱くなって地上では七メートル毎秒程度と思われるが、川の上では九から十一メートル毎秒だろうとウィンドサーファーのリチャードが言った。できれば穏やかな風か追風の日を待ちたいが、ここから下流では常に強い向風が西から吹くということなので、「今日のように向風が弱まった時には川を下らないと、遥か彼方にある河口までは到底着けないだろう」と判断して、今日は出発することにした。



カヤックが岸を離れてから帆を張ったり舵やキールを下したりと帆走の準備をしているほんの僅かな時間に、向風に押されて川上へと百メートルほど流されてしまった。流された分だけ戻らないと、突堤を越えて本流に出られない。ところが、いくらタッキングを繰り返して川幅方向に行ったり来たりしてみても(帆走では、風に真正面から向かっても進めない)、向風に逆らって川下へと進むことができない。突堤内ですら水上では岸よりも強い風が吹いていた。帆を張った太いアルミパイプがしなっている。五十分かけて川幅方向へ四往復したが全く川下へと進めず、アウトリガーの空気が少ないことに気付いていったん岸に戻った。

再び挑戦した。次は岸を離れてからの準備時間を極力抑えたので、一発で本流へと出ることができた。

岸から川の様子を見ているだけでは良く分からなかったが、本流では波が高かった。一メートル半ほどか。波頭は崩れて白く泡立つ。まるで海のようなありさまに驚いた。アドレナリンが体を巡り始める。カヤックは風を受けて横に大きく傾き、また波で前後左右に大きく揺れる。強い風を帆とカヤックが受けるために、舵を取っているラダーとパドルに強い水圧がかかる。風上へ帆走するために、波の進行方向に対してカヤックを斜め横に向けるので、横波をもろに被る。

本流を下り始めてから一時間二十分が経ち、かぶった波の水がドライスーツとスプレースカートの間から侵入し、カヤック中に溜まり始めていることに気付いた。この状況は危険だと判断して残念ながらも出発地点へ引き返し始めるが、途中に砂地の岸を見つけたので上陸する。疲れていたので流木に腰を下ろしてエナジーグミを食べていたが、幸いにも突然風が弱くなったので、戻るのを止めてまた川を下り始めた。



九時間カヤックを漕いで二十九キロメートル進み、午後八時ルーズベルト公園に到着した。