2012/05/07

ザ・ケネウィックマン・エクスペディション、36日目


午前一時半に自然と目が覚める。夜空を見上げれば天の川が流れ、西風は穏やかになっていた。ルーズベルト公園で停滞し、四日目にやっと訪れたチャンスであった。出発準備を始める。



午前六時十分、コロンビア川へとカヤックを漕ぎ出す。水の上に浮かぶと、強風がおさまるチャンスを狭いテントの中でひたすら待ち続けていた時に感じていた、焦りや不安は瞬く間に消え去り、気分は爽快で心弾んだ。

今日は出発してから休憩場所のサンドール公園に着くまでの三時間、キャリーが初めての旅の友となり、一緒に川を下った。仲間と喜びを分かち合えるのも、また素晴らしい。

漕ぎ始めてからの一時間は風が止んでいた。無風だと、僕のカヤックはキャリーのカヤックに比べて遥かに遅かった。荷物は詰め切れずデッキに溢れ、シングルパドルでしか漕げず、帆とアウトリガーは空気と水に対する抵抗となるのである。キャリーがたまらずロープで僕を引っ張りだす。

そののち、望んではいない向風がまたもや吹き始めた。しかし風速は昨日より遅く、秒速四メートルほどで向風に向かって帆走できるので、ジグザグと左右に切り返しながら川下へと進む。



サンドール公園で一時間休憩したあと、キャリーは出発地点のルーズベルト公園まで引き返すため上流に、僕は下流へと別れた。

また風が止んだ。体力を数時間で消耗しきらないように、力を抑え気味にして漕ぎ続ける。今日は強烈な向風が止んだ滅多にないチャンスだったので、たとえ夜になっても漕ぎ続けて、行けるところまで行く覚悟でいたのである。

川幅は一キロメートル以上、断崖の高さは百メートル以上と、渓谷のスケールはあまりにも大きすぎるので、その中央をカヤックで移動していても、遠く離れた岸の景色はまるで流れない。自分が前進していることも分からない。だが、赤茶けた大地に深く刻み込まれて何処までも続く渓谷は、日が昇りそして日が沈むまでカヤックの上から眺め続けていても、心は魅了されたまま見飽きることなど一切なかった。



無風からわずかな追風へと変わり、状況が好転した。時速二キロメートルで流れる水の上を、帆が追風をはらんでカヤックは時速四キロメートルで進む。



夕暮れの渓谷が黄金色に美しく染まり、まるでタペストリーの世界に迷い込んだようだ。午後七時二十分、ジョンデイダムのすぐ手前にあるルパージュ公園に到着。水に浮いたまま十三時間を過ごして、四十一キロメートルを移動した。

キャリーが待っていてくれて、祝福のコロナビールを僕に満面の笑顔で差し出す。そしてジョンデイダムの迂回を、彼のキャンピングカーでサポートしてくれた。今夜は河原で夜を共に過ごしている。