2012/04/15

ザ・ケネウィックマン・エクスペディション、14日目



カヤックをテントへと引き上げていたら、ヨット乗りのフィルが声をかけてきた。ケネウィック港に係留している彼の双胴ヨットへ乗り込む。

「コロンビア川は、カヤックで下るような川ではないよ――太平洋から大陸へと常に吹く海風は、アメリカ西海岸沿いを南北に走るカスケード山脈に遮られる。そしてその風は、山脈を切り開くコロンビア川の渓谷に集まり吹き込むんだ。そこでは、ファンネル効果で風速が増すんだよ。だからコロンビア川では、たいてい下流から上流へと強い風が吹き抜けていて、その風と逆方向に流れる水が相まって、三メートルもの波が立つときもあるんだ。俺のヨットでも航行できずに引き返した時があった――コロンビア川は世界中からウインドサーファーが集まるメッカなんだよ――調べてみたんだが、カヤックで下ったという話は、まだ一人だけしか上がってこない――ここから先にはダムが四つあるが、八十年前に作られたかなり古いものもあり、それらの設計時にはカヤックのことなど考慮されていなかったので、通過したり迂回したりすることはできないかもしれない」

使い古した海図を船室のテーブルに広げ、衛星から送られてくる気象情報をモニターで見ながら、フィルは様々な情報を僕に教えてくれた。

日本の川とは全く様相が異なるようだった。まだ一歩も先に進んでいないというのに、乗り越え方が見えない壁が、幾重にも迫り出してきた。

前進するしかない。まずは最初のダムまで、何としてでも。



四五件の店で食料や装備などを買い出すために、ベンとマイクが交代で車を出して付き合ってくれた。アメリカでは車がないと何もできない。とても有難かった。