2012/04/29

ザ・ケネウィックマン・エクスペディション、28日目



真夜中の一時に起きて出発準備を整えると、夜明け前の午前四時四十分にヘッドライトの細い光だけを頼りにして暗闇のコロンビア川へと漕ぎ出した。



夜空が微かな光を帯び始めて、夜明けが近いことを告げる。寒い。フリースを着込んでいるが、水上の冷たい風が体を刺して凍えてくる。一旦上陸して服を取り出すこともままならず、前部の帆を体に巻き付けて、日が昇り陽光が体を温めてくれるのをひたすら待ち続けた。



長さが四キロメートルにもなる大きな島の北側にクロウビュート州立公園があり、そこが目指すキャンプ地だった。公園に延びる支流へとカヤックの進路を取った。ところがなんと地図上で橋だと思っていたものが、実際には川を埋め立てた盛土の道路であって、川の流れを完全に塞いでいるため引き返す羽目に陥って、二時間半も浪費してしまう。島の反対側にある別の支流から行くしかなかった。

本流へと戻ってみると、無風になっていた。まだ太陽が高い午後五時の強烈な西日が、水面の照り返しと相まって体をじりじりと焼く。空気は動かず肌に纏わりつき、体の熱を奪ってくれない。たまらぬ暑さだ。出発してからすでに十二時間も水の上で過ごしていた。体に熱がこもって、気分が悪くなり頭が朦朧としてくる。いくら川を下れども上陸できそうな場所は見当たらず、たとえ上陸できたところで乾燥した荒野には木陰などなく、強い日射しからの逃げ場はなかった。

暑さをどうにか耐え忍びながら本流を一時間下ると、目的地のクロウビュート州立公園へと続く支流との分岐点まで来た。しかし、この暑さの中この体調で、あと一時間半も静水の中を漕ぎ続けるのは危ないと感じた。地図を広げてみる。漕がずにただ川に流されて、あと三時間じっとカヤックの上で耐え忍び、十キロメートル下流のクワネル公園まで行った方が良いだろうと判断した。日射しは弱まることがなく、このままカヤックの上で倒れてしまうのかと心配になる。



日が沈みかけた午後八時二十分にクワネル公園へと辿り着くと、「ああ、まだ生きている!」と、生きて再び大地が踏める喜びが込み上げてきた。十五時間と四十分かけて六十一キロメートルを川の上で揺られながら、日が昇り、そして日が沈むのを見ていた。